創作的活動と精神の飢えについて

 レオ・レオニの『フレデリック』を思い出しながら考えたことのメモ。

フレデリック―ちょっとかわったのねずみのはなし

フレデリック―ちょっとかわったのねずみのはなし


 絵本を読む数はそこまで多くないので、知っている絵本作家は片手で数えられる程度です。お恥ずかしい。優れた絵本には哲学が大いにふくまれていると言うし、いろいろ触れてみたいなという思いはありますので、オススメあったらくださいな。
 そんなわけで絵本には疎いので、『フレデリック』も有名作品故に触れたことがあるといった程度です。話をすべて読んだ上でのエントリーなので、もしも読んだことのない方はよろしければ最寄りの図書館などでお読みください(?)一緒にウンウン考えましょう。
 私の手元にあるのは原作の英語版で、普通なら原作の方に触れる機会はなかなか得づらいのかなとも思いますが、私でも読めるレベルの易しいものですのでお探しいただければと。谷川俊太郎の日本語訳も温度のある言葉遣いや解釈が優しいなと思います。
 日本語版の絵本は手に取っていないのでわからないのですが、英語版の方は表紙をめくったところにすごくいい創作のヒントが載っています。

 いつも前置きが長くなるので反省したいのですが、書きたいことは本当にメモ程度なので、なんとも……むしろこれから書く考えていることは自分のためなので、前置きの宣伝部分だけで十分かもしれません。

 道を歩きながらぼんやり考えたこと、以下の通り。
 『フレデリック』の物語の、越冬のシーン。凍えや飢えによって萎えきっていた他のネズミたちを、フレデリックが年中かけてあつめた言葉たちでもって暖めていきます。ネズミたちは心も体も暖まって、フレデリックを褒め称えます。
 フレデリックの果たした役割は素晴らしく、絵本の言葉もちょうど、読み手を温めてくれるようです。
 こういった経験、つまり創作的表現によって心が暖められるというのは我々も常日頃体験していることであって、例えば好きな漫画やアニメを視聴したり、好きな音楽に身を浸したり、絵画を見て一息ついたり、何か物語や詩に触れて頭をクルクルさせたり……こういうのもすべて、言うならば「フレデリック」との出会いなのかなと思います。エロチックな下着をまとう「フレデリック」や暴力沙汰を起こしまくる「フレデリック」もいるのですが、それもまた色んなところを温めてくれるのかななどと。ともあれ、こうして「フレデリック」たちに触れるたびに私たちは心に水を灌いだり、揺らしたり、温めたりすることができるのかもしれません。
 身体的な飢えや疲労があっても、素敵な「フレデリック」に出会えれば、精神を満たすことができるように思います。日ごろそうやって励まされながら頑張っている人もたくさんいるのでは。

 逆に、自分が「フレデリック」になるというチャンスは誰にでもあるわけで、例えば考えたこと見聞きしたことを誰かに伝えるという行為そのものが「フレデリック」になる第一歩なのかなと思います。それは先ほど例示した、あるいはそれ以外の、いかなる形でも、きっと「フレデリック」なのかなと。例えば、私がとん挫している安米野通の創作活動も、「フレデリック」の小さな前足になっていたのかもしれません。
 『フレデリック』の中で、フレデリックは他のネズミたちが労働を重ねる中で一人景色を眺めて様々なものを集めているわけですが、これが私が今までのエントリーで書いた創作のプロセス「考察」と「共鳴」なのかなと思います。そして、それを冬の冷たい石垣の隙間で、他のネズミたちに提示する。創作者としてのプロセスそのものではないでしょうか。第一歩はすごく簡単なものに思えます。

 ところで現代社会においてフレデリックと同じことをして許される人間ってほとんどいないと思います。”働かざるもの食うべからず”、ですから、多くの創作者は労働ネズミになる傍ら「フレデリック」業にも勤しむ、といった感じなのかなと。それだけならいいのですが、最近では「フレデリック」そのものを否定する動きも一部に存在するのかなと感じます。感性は人それぞれなので、好きなもの嫌いなものあるのは当然のことではありますが、そもそも「フレデリック」であること自体を否定するといった行為はいかがなものかと思います。

「そんなこと考えてどうするの」「才能ないんだから」「時間の無駄だよ」

 ネガティブな言葉すぎてみるだけで吐き気がするのですが、これ。
 先ほど言ったように「フレデリック」の営為は心にご飯を食べさせてあげる行為なので、これを否定しちゃあ生きていけないなあと私は考えるわけですけれども。さらに、「フレデリック」を否定することは世界への考察と共鳴を行わせないということであり、それこそ盲目になってしまうのではないかなと思うわけです。精神的な飢餓って怖いですよ。


 そんなことをウダウダと考えつつ、最近の自分は精神的には少々暴食気味です。他人の作ったマンマがうまい~!
 心の冬はたくさんの「フレデリック」たちと越えていきたいですね。季節はこれから夏ですし、どんどん色とかお日様とか集めていきたいですって感じで今日この頃。